金沢の三文豪・泉鏡花作「絵本の春」語りの会へ|金沢・文学

英語のスペシャリスト・金沢在住の通訳案内士のfumieです。

今回は泉鏡花記念館と鏡花の語りの会のレポートをお送りします。

三文豪 泉鏡花とは

泉鏡花は金沢ゆかりの三文豪のひとり。明治から昭和にかけて活躍した小説家です。

個性的な作品で知られていますが、複雑な生い立ちや人生の分かれ目、そして生まれ故郷金沢に強く影響を受けた作品をいくつも残しています。

生家近くにある泉鏡花記念館

鏡花の生家があった下新町にある泉鏡花記念館では、鏡花の生涯やその作品を紹介しています。常設展では鏡花ゆかりの品などが展示されています。

鏡花の作品に大きく影響を及ぼしているのは9歳で失くしたお母さん。お母さんが恋しい鏡花は、お父さんとお参りに出かけたお寺で出会った摩耶夫人(まやぶにん・お釈迦様のお母さん)の仏像に母の面影を重ねます。

その後、鏡花はお母さん(鈴)と同じ名前の女性(すず)と結婚します。ただの偶然なのか⁈ もしやかなりのマザコンだったのでは⁈ と私の勝手な想像が広がります(笑)

鏡花の父は彫金師

記念館前に立つ父とその傍らに寄り添う幼い鏡花の像。鏡花の父清次は工芸に力を入れていた加賀藩のお細工所に仕える彫金師。母鈴の実家は加賀藩お抱えの能楽の太鼓師(おおかわし・能楽の舞台で太鼓の演奏者)でした。

企画展「絵本の春」原画展

鏡花作品は今までにも何冊か絵本化がされていて、毎回個性的なアーティストが鏡花作品とコラボしています。

今回短編「絵本の春」が絵本になり、鏡花記念館では企画展として、挿画の原画を展示しています。絵本「絵本の春」は画家・版画家の金井田英津子(かないだえつこ)さんの作品です。

本が大好きな少年は荒れ果てた土塀の小路に忽然と現れた貸本屋に迷い込む。美しく若い女性から草双紙を受け取って胸にしまって帰ったところ、その草双紙がいつの間にやら消えていた。

そして道で会った知り合いの太ったおばさんに、残酷に命を奪われた女の恐ろしい物語を聞かされ、震え上がる少年・・・。

読んでいくうちにいつの間にか少年と同じく恐ろしい物語にひきこまれていきそうです。

妖しき世界を彷徨う少年の物語

こんな鏡花独特の妖しい世界が金井田さんの版画で描かれています。物語の舞台は浅野川周辺。川にかかる橋や主計町(かずえまち)茶屋街の裏手の坂、など地元民ならすぐわかるロケーションも。あれ?ここ見たことある⁈ と思ったらなんと我が家の前の路地でした(笑)

鏡花の語り手 野上裕章さんの朗読会へ

そしてこの絵本の出版を期に、浅野川の辺りにあるひがし茶屋街で「絵本の春」の朗読会が行われました。会場はBar粋蓮(すいれん)大通りから一本入った通りにある町屋のバーです。

演者は、野上裕章さん。鏡花作品の語り手の第一人者です。自身が演じる作品を何度も何度も読み返す野上さん。鏡花作品を誰よりも深く理解するひとりです。

登場人物の少年や太ったおばさんをひとり語りで演じ、あっという間にオーディエンスを鏡花の世界に誘います。

まるですぐそこに少年が立っていて、お風呂上がりの太ったおばさんが少年に語りかけているようで、絵本を読むのとは違う臨場感があります。

野上さんとお母さんの物語

語りの後は野上さんを囲んでお喋りタイム。ひとり語りの会を主催する野上さん。今回は感染症予防のため、参加人数を制限しての開催でした。

ビールを傾けながら話すのは数年前に亡くなったお母さんとの思い出。野上さんのお母さんはひがし茶屋街の芸妓さんでした。現役時代、踊りの名手として知られ、大役を抜擢されて大きな舞台で活躍したそうです。

当時は大勢いた芸妓衆の中でもまれて懸命に芸を磨いてきたこと。家でひとりお留守番する野上さんを心配してお座敷をこっそり抜け出して電話をかけてきたことなど、大好きなお母さんの思い出をとても幸せそうに語る野上さん。

はっ!もしかしてこの人も鏡花と同じマザコン⁈ いやいや、そうでなくてもこんな素敵なお母さんを尊敬しないわけはありません。

きっとお母さんも野上さんの語りを誇らしく聴いていることでしょう。

【まとめ】文豪の街 金沢

鏡花だけでなく秋声や犀星も金沢を舞台にした作品をいくつか残しています。

野上さん曰く「小説家は自分が経験していないことは書けない」作家に起きた出来事、見た風景、出会った人たちがいつまでも小説の中で生き続けているんですね。

普段は実用書ばかりで小説はあまり読まない私ですが、せっかく素晴らしい文豪たちの生まれた土地に住んでいるのだから、読まない理由はないですね。

読書の秋、浅野川の川縁で風に吹かれながら読書も良いかもしれません。ひょっとしたら妖しい貸本屋に迷い込むかも(笑)

泉鏡花記念館へのアクセス

泉鏡花記念館は近江町市場のある武蔵ヶ辻エリアからひがし茶屋街の中間地点にあります。いずれのロケーションから徒歩約10分です。

名称泉鏡花記念館
所在地〒920-0910 石川県金沢市下新町2番3号
連絡先076-222-1025
開館時間午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日年末年始(12月29日~1月3日)
※その他展示替えなどで休館あり
入館料個人 310円
一般 団体(20人以上)260円
65歳以上・障害者手帳をお持ちの方、およびその介護人 (※祝日無料)210円
高校生以下 無料
*金沢市文化施設共通観覧券利用可
駐車場・金沢蓄音器館との共同駐車場(記念館横) 4台
・東山観光駐車場(有料・徒歩5分)
バスのアクセスふらっとバス】 
・JR金沢駅東口11番バスのりばから「金沢ふらっとバス(此花ルート)」
 彦三緑地下車 徒歩5分
北鉄バス】 
・JR金沢駅東口7番バスのりばから「城下まち金沢周遊バス」右回り
 橋場町(金城楼前)下車 徒歩3分

・広坂・21世紀美術館バス停から「城下まち金沢周遊バス」左回り
 橋場町(金城楼向い)下車 徒歩3分
ウェブサイトhttps://www.kanazawa-museum.jp/kyoka/index2.html

投稿者プロフィール

fumie
金沢生まれほぼほぼ金沢育ち。28年間英会話講師を務め、長年の夢だった全国通訳案内士の資格を取得。金沢を訪れる海外からの旅行者をアテンドしています。趣味は、英語学習。留学経験なしの「純ジャパ」で英検1級、TOEIC970点を取得した経験を生かして英語学習者に役立つ情報とガイドの仕事で得た地元・金沢の情報とその魅力を紹介していきます。

この記事を書いた人

fumie

金沢生まれほぼほぼ金沢育ち。28年間英会話講師を務め、長年の夢だった全国通訳案内士の資格を取得。金沢を訪れる海外からの旅行者をアテンドしています。趣味は、英語学習。留学経験なしの「純ジャパ」で英検1級、TOEIC970点を取得した経験を生かして英語学習者に役立つ情報とガイドの仕事で得た地元・金沢の情報とその魅力を紹介していきます。